orgドメインの企業への売却計画。ICANNは公明正大な保護責任を果たせるか

orgドメインの企業への売却計画。ICANNは公明正大な保護責任を果たせるか

orgドメインの企業への売却計画。ICANNは公明正大な保護責任を果たせるか

世界で3番目に利用されているTLD(トップレベルドメイン)の.orgドメインの制御が、企業に11億ドルで売却される計画が進行していました。

非営利団体の要であるorgドメインの信頼性が損なわれるという事で非難が続出しました。

結果としてICANNは公明正大な監査義務・保護責任を果たすべく、売却を不承認としています。

orgドメインの企業への売却計画

orgドメインの制御管理が非営利団体から最近設立されたプライベート企業に、11億ドルで売却される計画が浮上しました。

非営利団体の要であるorgドメインの信頼性が損なわれるという事で非難が続出していました。

今こそICANNは公正な監査を実施し、問題解決に最大限尽力する姿を見せるチャンスです。

orgドメインとは

オンラインによる営利活動は、過去25年間にわたってインターネットを大きく形成してきました。

そのインターネットの中で「非営利」であり続け、商業目的へ抵抗し続けるドメインの存在があります。

その1つが世界で3番目に利用されている「.org」トップレベルドメイン(以下orgドメイン)です。

orgドメインは手頃な価格で取得・運営する事ができ、非営利団体や非政府組織にとって重要なドメインです。

ドメインはインターネット上の不動産名義

WEBサイトのドメイン名は、インターネットにおける「不動産」のように考える事ができます。

ドメインがなければオンラインで存在する事はほぼ不可能だからですね。

現在、世界中で実に3億5,000万を超えるドメイン名が登録されている状態です。

3億5千万のドメインを各レジストリが管理

ドメイン名はドメインを管理するいわゆる「レジストリ」と、提携会社(レジストラ)によってユーザーに販売されています。

もちろんそこを通して私もたくさんのドメインを購入・維持しています。

不動産名義とも言える膨大な数のドメインは、各レジストリ管理の元それぞれのルールを守って運営されているのです。

ドメイン管理の非営利団体:ICANN

ICANN

どのレジストリがどのトップレベルドメインを制御するかを指定し、ドメイン所有権に関する紛争の解決に努める非営利団体が「ICANN」です。

ICANNは、政府役員・業界代表者・市民社会メンバー等で構成され、様々な諮問委員会からのフィードバックを組み込んだ理事会により運営されています。

これは「インターネットの全てのユーザーがその運営方法について発言する価値がある」という前提に基づき構築されたモデルです。

Ethos Capitalへのorgドメイン売却

orgドメインは2002年以降、以前から高い評判の非営利団体「Internet Society」が所有する「Public Interest Registry」と呼ばれる機関が管理担当をしていました。

しかしこのInternet Societyが、2019年11月にニュースを引き起こします。

全ての.orgドメインの制御と公益登録を、「Ethos Capital」と呼ばれる最近設立されたプライベートエクイティ会社に、11億ドルで売却する計画を発表したのです。

この提案は、Wikiメディア財団やエレクトロニックフロンティア財団などの著名なインターネット非営利団体の多くの人々から反感を買いました。

orgドメイン価格の高騰の懸念

2013年以降、orgドメインのコストは8.25ドルに制限してあり、年間10%以下の増加しか認められていませんでした。

現在orgドメインの年間コストは9.93ドルです。

しかし2019年6月、ICANNはPublic Interest Registryとの新たな契約を承認し、この価格の上限を撤廃したのです。

売却後も相場が守られる保証はない

売却先のEthos Capitalは元々、orgドメインの顧客への販売価格を急速に引き上げる事には懸念を示しています。

そして今後も引き上げ率は年間10%程度に引き続き維持すると述べてはいます。

しかしこの約束が売却後も守られるのかについては、保証は無いのです。

この価格の上限取り引きをめぐって懐疑論が浮上しています。

外国政府の圧力を受ける懸念

もう1つの懸念は、組織に対するorgドメイン所有の許可・不許可の決定の際に、Ethos Capitalが外国政府からの圧力を受けるのではないかという事です。

現在.orgはオープンドメインであるため、誰でも.orgドメインが登録でき、世界中で1,000万を超えるドメインが登録されています。

非営利団体の違法行為に対してドメインで制裁

もともと「Public Interest Registry」には、違法行為に対する制裁としてドメインを一時停止する権限があります。

そこで政府が非営利団体NGOの違法行為を非難する目的から、Public Interest Registryに圧力を掛けている噂がありました。

実際に中国政府は2019年年末ごろ、香港での抗議行動に関与した事で米国に本社を置く5つのNGOに制裁を与えました。

これら5つのNGOは全て.orgドメインを持っていましたが、そのドメイン自体が削除されています。

契約不履行の懸念

契約内容について心配する声もあります。

Internet SocietyとEthos Capital間の契約内容は、インターネットコミュニティが発展するための日々の努力が蓄積された、協調的であり透明性のあるモデルとは言えないもののようです。

orgドメインがコミュニティの関与やICANNからの監視なしでEthos Capitalへ売却されるのは、決して良い事ではありません。

そうなると利益だけが優先され、ドメインの整合性だけでなく運用を担当する組織が持つ信頼性も脅かしてしまいます。

ICANNの管理責任・保護責任について

ICANNはもともと取引を阻止するだけでなく、orgドメインを管理し顧客を保護する責任を持っているはずです。

ICANNは年末に「Public Interest Registryは各レジストリ制御や申請・変更をする前に、ICANNの事前の承認を受ける必要がある」と、ブログで声明を出しています。

さらに同時に「この提案された申請を非常に真剣に評価する責任を負う」とも約束しています。

その声明通りICANNは、今回の売却に関する詳細情報をPublic Interest Registryに求めているとしています。

しかし、その問い合わせ内容やその後の対応についてはほとんど国民に伝えておらず、今回の取引に関する公のコメントも求めていません。

ICANNによるトップレベルドメイン解放の歴史

ICANNとしてはこのorgドメイン売却は、ドメイン自体のセキュリティや信頼性・安定性は脅かさないと判断している様です。

しかしICANNは、セキュリティと安定性の問題に関係のないドメイン所有権についても定期的な判断を下した事があります。

TLD(トップレベルドメイン)の種類解放

ICANNは2012年に.google、.love、.microsoft、.wineなど、2,000個近くにのぼる新しいトップレベルドメインを許可しました。

.com.org.govなどの標準的なドメイン以外に、さらに多くのトップレベルドメインを開設できる様になったのです。

.amazonドメイン解放で紛争

最近では、南米のいくつかの国の反対を押し切り、Amazonが.amazonトップレベルドメインの所有権を付与する件が話題でしたね。

※この問題は現在も係争中です。

ICANNへの資金流入

このようなトップレベルドメインの拡大によりICANNには大量の現金が流入する事になります。

ドメインを維持するためには継続的な料金に加え、申請者はICANNに185,000ドルを支払う必要がありました。

その資金を元に国際的な拡大を実現し、2016年最終的には米国政府との関係を断つ事にもなりました。

国際的な信頼とリスクを同時に受ける

米国政府の関係を断った最大の目的は、ICANNへの国際的な信頼を高めることでした。

ICANNはあくまでグローバルなインターネットガバナンスのシステムであり続けようとしています。

しかしその代償として常に商業的利益に捕らわれる危険にもさらされているのです。

商業的リスク

このリスクは、ICANN自身に利益をもたらす2012年からのトップレベルドメインの拡大で初めて明らかになったと言えます。

ICANNは現在、政府高官から市民社会グループや営利企業まで、様々な利害関係者を含む全ての利益バランスの影響下にあります。

非常にデリケートな立場にあると言えるでしょう。

Ethos Capitalも同様

今のところEthos Capitalも批判を恐れない態度や積極的な姿勢を見せず、疑問を抱かれない様に振る舞っています。

世界的なコミュニティとの信頼関係が重要ですからね。

ICANN同様に、デリケートな利益バランスの中にいるのは間違いありません。

ICANNは公明正大に保護責任を果たすべき

ICANNにとって真のリスクは以下にあると思います。

・インターネット上の公共利益のため保護されるべき部分が保護できない
・営利関係者が支配的な発言権を持つこと

常に公の立場として、利害関係者に対しての「盾」となるのがICANNの立場であると考えます。

保護されるべき公共利益が今回の売却によって損なわれれば、それはインターネット全体の大きな損失となります。

ICANNが取るべき行動

今回の売却を闇雲に阻止するべきというのではありません。ICANNには監査役として、しかるべき義務を有して欲しいという事です。

・今回のorgドメイン販売を公に調査する
・orgドメインの顧客を保護するために可能な手段を正確に把握する
・保護や強制力がないとわかった場合の対処法考案
・ユーザーやレジストラからの不満が続出した場合の対処法考案

orgドメイン売却は不承認へ

世界中から署名が集まる

売却を成立させるにはICANNがその売却を承認する必要がありますが、本来のICANNの承認期限は2月17日でした。

しかし、売却反対の意思を示す6.4万人以上の署名が集まり、900以上の世界中の団体も署名をする事になり、世界的に注目を集めます。

カリフォルニア州司法長官ハーヴィエア・ビセラからも直接質問状(情報提供の打診)が届きます。

この売却の見直しと同時に売却の承認期限を4月20日まで延長するよう求めていました。

orgドメイン売却計画は消滅

ICANNは結果 .orgドメインの所有権をEthos Capitalが買収する事を公式に受け入れない決断をしました。

orgドメインユーザーおよび非営利組織団体のためにまさに「盾」となり、公明正大な保護責任を果たしています。

orgドメインユーザーは今回の買収が阻止された事を歓迎しました。

orgドメインの持つ非営利団体としての信頼性の損失を防げた事、そしてユーザーに不利益になる様な価格変更の可能性が低くなったためです。

ICANNは大仕事をしましたね。

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